街中で見掛けるポスターや電車の中吊り広告、ホームページなどを見ていると
「これなんて書いてあるの?」「小さすぎて読みづらい…」
等々、感じたことはないでしょうか?
なぜ、そんなに読みにくいデザインが存在するのでしょうか?
読みやすさは正義?
一般的に、文字は読みやすければ読みやすいほど良いものと認識されています。
誰にでも、できるだけ分かりやすく情報を伝える、というのはデザインの基本的な役割です。
しかし、すんなりと読めないことで、実は良いこともあるのです。
読みにくい方が記憶に残りやすい?
プリンストン大学の研究(*1)できるでは、同じ内容のテキストを読みやすいフォントと読みにくいフォントでそれぞれ用意し、年代・性別の異なる被験者に、内容を90秒で覚えてもらい、どれだけ記憶できているかテストを行ったそうです。
その結果、読みやすいフォントを見ていた被験者の正答率は72.8%だったのに対し、読みにくいフォントで読んでいた方は86.5%と、より正確に記憶できていたそうです。
すらすらと読めるフォントよりも、あえて小さい文字や薄い色を使った読みにくいテキストの方が内容を難しく感じさせ、結果としてより深く注意を払って学習するようになったようです。
読みにくい方がより深く理解する?
同様の実験で、通常のフォントで印刷した問題文と、あえて読みづらく印刷した問題文を学生に問いてもらった結果、読みにくいフォントの方が正解率がはるかに上だったという検証結果もあります(*2)。
こちらで出題したのは下記のような数問のひっかけ問題です。「湖の中にスイレンの葉があります。
スイレンの葉のサイズは毎日2倍に成長します。
葉が湖全体を覆うのに48日かかる場合、葉が湖の半分を覆うのにどれくらいの時間がかかりますか?」
読みやすい字ではつい直感的に答えてひっかかってしまう問題も、読みにくいフォントだと文章をよく読まなくてはならず、結果、慎重に考えることに繋がったのではないかと考えられます。
読みにくい方がバイアスが減る?
「バイアス」とはその人の持つ先入観や思い込み、偏見による思想の偏りのことを指します。
ある研究(*3)では、死刑制度についての主張が書かれた資料を被験者に読んでもらう実験を行いました。
被験者の一方には賛成の主張、もう一方には反対の主張を読んでもらった結果、読みやすいフォントの資料を読んだ人は資料内容に影響を受け極端な主張をしたのに対し、読みにくいフォントで読んだ人達は、中庸・中立的な意見を持つ傾向が多かったそうです。
読みやすいフォントで読んだ内容はすんなり受け入れて鵜呑みにしがちで、反面読みにくいフォントでは、より内容について深く考えることで個人の持つバイアスが低減される効果があるようです。
すんなり入ってきた情報は、抜けやすい
いずれの検証においても考えられるのは、読みやすい文章よりも少し読みにくい文章の方が
閲覧者がより深く注意を払って考える傾向があるということです。
腕時計やスマホで、時計を確認した直後に「あれっ今の何時何分だったっけ?」と二度見してしまったことはないでしょうか?
すんなり入ってきた情報は、すんなり抜けやすいものです。
「ユーザビリティ」「ユニバーサルデザイン」といった言葉も昨今はかなり浸透してきましたが、あえての障害をつけることが効果的な場面も時にはあるのではないでしょうか。
じゃあ読みにくくてもOK?
ここまで「このデザイン読みにくいけど実はわざとなんですよ」というデザイナーの言い訳じみたものを感じますが、基本的にデザインは見やすく読みやすく作るのが原則です。
上で述べた例は「読む必要があった」人達が対象だったからこそ有効なデータであって、見た人が「読みたい!」「読まなくては」と思う理由・動機がなくてはこのルールは成立しません。
また、あくまで「読みにくいけど読める」適度な読みにくさであって、完全に読めないのはNGです。
これをあえて狙うくらいであれば普通に読みやすく作る方が遥かにカンタンです。
いちデザイナーとして、いつか「読みにくさ」もデザインの手法として自在に取り入れられるようになりたいですね。
出典
*1 Princeton University 『Font focus: Making ideas harder to read may make them easier to retain』
https://www.princeton.edu/news/2010/10/28/font-focus-making-ideas-harder-read-may-make-them-easier-retain
*2 マルコム・グラッドウェル著『逆転! 強敵や逆境に勝てる秘密』
*3 Science Daily 『Difficult-to-read font reduces political polarity, study finds』
https://www.sciencedaily.com/releases/2012/11/121102151946.htm