デジタルマーケティングにより謙虚に。平岡謙一氏に聞く地方のWebの現状と今後の支援のあり方

 

「地方は東京に比べて遅れている」

もしかしたら、この記事を読んでいる方の中にも、この言葉を聞いたことがある人もいるかもしれません。

 

実際、日本の広告代理店のほとんどは東京に集中しています。

東京には情報が溢れている一方、物理的な距離が壁となって、地方に情報が不足しているのはある意味本当かもしれません。

 

では、実際地方のデジタルマーケティングはどのような状況なのでしょうか

また地方で支援会社は、どのようにクライアントに関わっていけばよいのでしょうか

 

そこで今回は、地方でデジタルマーケティングを推進している平岡謙一さん(@shizuoka_hira)に「地方のWebマーケティングの現状と、今後の支援のあり方」についてお話をお伺いしました。

広告代理店やデジタルマーケティングに携わられている事業会社の経営者、担当者のみなさまは、ぜひご一読ください。

 

株式会社アクシス技術顧問、および数社のマーケティング顧問
平岡 謙一さん

大手電機メーカーで海外振興市場のマーケティングに9年間従事したのち、2009年に独立してWebコンサルティング会社を設立。その後、株式会社アクシスに合流し、代表取締役の臼井と共にWebコンサルティング事業を推進する。2020年に独立。引き続きアクシスの技術顧問を務めつつ、アジアで活躍する企業へのWeb支援を進めている。
Twitter:@shizuoka_hira

 

支援会社から独立した経緯

平岡さん

—平岡さん、今日はよろしくお願いします。最近独立されたと思いますが、その経緯から教えていただけますか?

 

平岡:これまで8年ほど、岐阜にあるWebマーケティング会社のアクシスで働いていました。

アクシスに来るまでは、アフィリエイトサイトを運営していましたが、だんだん楽しくなくなったんです。

広告代理店にある広告案件をサイトに掲載するだけで、実際にエンドユーザーに接しないので。

 

ある時、代表の臼井からブランドの物販事業の話を聞き、手伝うことになります。

すると、お客様から「これ買えてよかったです」とダイレクトに声が聞ける。これは面白いと思いました。

代表のひととなりにも共感し、アクシスに加わり代表と試行錯誤しながらWebマーケティング事業を始めました。

 

今年アクシスから独立した理由は、海外にチャレンジしたいと思ったから。

最近、マレーシアやフィリピンのクライアントをお手伝いするようになりました。

また、ちょうど今年40歳にもなります。

いろいろ迷いましたが、このタイミングで海外のマーケティングに挑戦しようと決心したんです。

 

臼井とも話しているんですが、いずれはアクシスの海外事業部もつくりたい。

その前に、まず自分1人で事業として成果を出したいと考えています。

地方のWebマーケティングの実情

平岡さん

東京の代理店の食い物にすらされない地方

—支援会社から独立して、見え方も変わると思います。平岡さんから見て、地方のデジタルマーケティングの実情は、どのように映っていますか?

 

平岡:これまで東京にある会社は、ちゃんとデジタルマーケティングに取り組めているが、地方はいまいち進んでいない。

場合によっては、無知につけ込んで、代理店の良いようにされていると思っていたんです。

 

しかし、実際はそれ以前の問題でした

ある時、「会社名で検索しても自社サイトが出てこないから、どうにかしてほしい」と相談を受けたんです。

調べてみると、なんとサイトの全ページにnoindex設定(※Googleの検索結果に出さないようにする設定)がされたままでした。。。

 

 

またある時は、子どもの運動会で噂を聞いて、地方の一人親方みたいな方からWeb集客の相談を受けました。

しかし、その方はホームページはおろか、名刺すらないのです。

だからまず名刺をつくって、Google マイビジネスに登録して、無料でできるTwitterのアカウントを作りましょうと提案しました。

 

 

これまでイマイチだから伸ばせると思って支援していた会社は、地方全体から見てとてもハイレベルだったのです

現実として、WordPressのインストールができず、コーポレートサイトを無料ブログサービスで作っているところもあります。

広告費を1万円ほど捻出するのも難しい零細企業も存在します。

 

私が想像していた以上に、地方のデジタルマーケティングは厳しい状況でした。

東京の代理店の食い物にすらされないレベルなのが、地方の現状なんです。

 

私たちはデジタルマーケティングにどう向き合うべきか

平岡さん

もっとデジタルマーケティングに対して謙虚でなくてはいけない

—コロナ禍で大きく社会構造も変わってきています。私たちはデジタルマーケティングに対してどう向き合うべきでしょうか。

 

平岡:もっとデジタルマーケティングに対して謙虚に接しなくてはいけないと感じています。

デジタルマーケティングでできる施策は、たかが知れています。

「Webならなんとかしてくれる」という過度の期待、幻想は捨てなくてはいけません。

 

私は今、フィリピンにある旅行会社の支援をしています。しかし状況は深刻です。

どんなに良いサイトをつくったり、ブログの記事を書いたりしても、飛行機が飛ばない以上、ほとんど何もできません。

それでも担当者の方は、「平岡さんなら、Webなら、何かできるんじゃないですか?」と相談してくださいます。

 

例えば、売上をカバーするために現地のお土産を販売するポータルサイトをつくることはできます。

しかしうまくいっても、旅行事業の売上全体の数%程度しかインパクトはありません。

ブログを書く頻度を倍にしたり、雑になっていた広告運用を改善してCVRを120%にしても、市場が冷え切ってしまえば焼け石に水です。

 

もちろん何もしないよりは良いかもしれませんが、Webでできることはごく限られています。

「この支援会社にデジタルマーケティングを任せたから、きっと何とかこの窮地を救ってくれるはず」

このように現実に向き合わず、未来に心の借金を先延ばしにすると、誰も幸せになりません。

 

デジタルマーケティングを進めるよりも先にすべきことは多くあります。

例えば、目先のキャッシュを確保する。また普段できなかったオペレーションの改善や、属人的な業務のマニュアル化を進める。

こういったことを進めるほうが、重要な時かもしれません。

 

クライアントの方も、支援会社も、「所詮デジタルマーケティングができることは、これだけなんだ」と謙虚でいることが必要だと感じています

思考のチェーンを切らさない

平岡さん

—Web業界にいると、何でもWebができるような幻想を感じてしまいます。よく「Webは魔法のツール」と思われがちです。サイトをつくっただけで、売上が何倍にも増え、頼まなくてもお客さんが来る。しかし、実際はそんなことはありません。だからこそ、原点に立ち返るのが重要かもしれませんね。

 

平岡:あるお客様は、先が不安になって冷静な判断ができなくなっています。だからこそ私たち支援会社は、お客様の立場に立って冷静に見ることが必要です。

 

多くの補助金が出ています。だからといって、この補助金を使ってホームページをフルリニューアルしたり、アプリを開発したりして、会心の一撃を狙うは危険です。

なぜなら100個のくじの中から、1個しかない当たりくじを狙うようなものだからです。

 

もちろんクライアント側にしっかりとした構想があり、資金計画も組んであるならよいでしょう。

しかし、その施策が失敗したらもう後がないような状況であれば、支援会社は冷静にデータを見て「今は難しいですよ」と言うことも必要です。

 

例えば、海外旅行に行けない今、フィリピンのオプショナルツアーは誰も検索しません。

仮に大金を使ってサイトリニューアルし、SEOで上位表示しても、見合うだけのリターンは得られないでしょう。

それなら、デジタルマーケティングでできること、できないことを正直に伝えて、お金をより有効的に使える議論をすべきです。

 

デジタルマーケティングはここまでしかできない。だから次は、この対策をする。

このように思考のチェーンを切らさず、クライアントにとって最善策を考えることが支援会社に必要だと感じています

 

クライアントの代わりにエンドユーザーの声を伝える

—すると支援会社は、自分たちができることにフォーカスするのでなく、クライアントがいま何をすべきかを考えなくていけませんね。

 

平岡クライアントはもちろん、その向こうにいるクライアントのお客様、エンドユーザーが何を期待しているかを見て、その声をクライアントに伝える役割もあると感じています

 

時にクライアントさんは、エンドユーザーの気持ちが分からなくなっています。

そして認識にズレがあるまま施策を打つため、思ったように結果が出ないなんてことも起きてしまいます。

 

だからこそ、支援会社はクライアントの目となり耳となり、エンドユーザーを見なくてはいけません

エンドユーザーが本当は何を考え、期待しているか。

それをクライアントに伝え、ズレを解消するのも支援会社の役割です。

これからの支援会社のあり方

平岡さん

超二極化していく支援会社

—支援会社も、より変化が求められるように感じます。今後、デジタルマーケティングを支援する会社はどのようになっていくのでしょうか。

 

平岡:今後、支援会社は超二極化していくと感じます

1つ目に、デジタルマーケティングの上流から下流まで一貫して機能を持ち、クライアントに寄り添って支援する会社です。

 

これまでWebマーケティングが矮小化されていたように感じます。

広告運用代行やサイト制作は、Webマーケティングそのものでなく、その一部に過ぎません。

 

本当は、商品設計とサービスの名前付けに始まり、市場調査をした上での訴求方法の検討、その訴求に合うサイト制作、集客の設計、CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)まで行うことでのLTV改善まで、全工程でマーケターとして関わる必要があります。

 

そこであらゆる知識とスキルを自身で持つか、外部の専門家とパートナーを組んで、あらゆるお客様の課題を解決できる真のWebマーケティング会社が求められるようになるはずです。

 

 

2つ目に、何も分からない方に設定などを代行する会社です。

地方には、Googleマイビジネスを使うためのGmailアドレスすら持っていない人もいます。

そういった方に、メールアドレスの取得とGoogleマイビジネスの登録、noteやTwitterのアカウントを作成する。

社長の思いを3記事くらい掲載して、そのURLを名刺に載せるような支援です。

 

 

今後、明確にこの2つに分化していくと思っています。では、その中間はどうなるか。

おそらくAIや事業会社のインハウス(内製)に代替されていくでしょう

 

例えば、SEOだと、かつてはキーワード密度や、被リンク構築などテクニカルな手法が有効でした。

しかし現在は、エンドユーザーを見て有益なコンテンツが作れれば、Googleに評価され、それなりに上位表示も可能です。

つまり昔と比べると専門的な知識を必要としなくなっているので、やる気さえあればインハウスも目指せるようになりました。

 

また広告運用であれば、かつては1広告グループに1キーワードをCSVを使ってでしか入稿できませんでした。

それが今は、極論を言えば、レスポンシブ広告やスマートディスプレイ広告を活用すれば、AIがある程度自動的に広告を運用してくれます。

すると自動化ツールを使うことで、内製できてしまう事業会社も多くなるはずです。

 

支援会社はあらゆることが求められていく

—支援会社は、どちらかに進むか選択が迫られるのでしょうか。

 

平岡:今後、支援会社はどちらかを目指すか選択しないと、10年単位のスパンで徐々に案件は減っていくでしょう。

昔はGoogleとYahoo!のリスティング広告だけやっていればよかったが、今はそれだけでは十分なアクセスは得られない。

だから、ソーシャルメディアの運用、YouTubeなどの動画媒体も使う必要があります。

 

求められる媒体、表現手段が増えてく中、支援会社は対応できる施策領域を広げないといけないでしょう。

よって未経験なことでもチャレンジしていく企業文化を育てなくては、徐々に事業領域は減っていくと考えます。

 

 

例外的に、日本トップクラスの専門性を持った支援会社も一部残るでしょう。

SEOやリスティング広告、デザインの専門企業として、支援会社へのコンサルを行う。

または支援会社がスキルやリソース面で対応できない案件を、サポートするのもありですね。

いずれにしても中途半端なスキルや事業領域では、生き残れなくなるに違いありません。

 

 

このコロナ禍で、先延ばしにしていたがいずれ来る世界が、10年早送りで来たように感じます。

いつかできたらいいなと思っていたオンライン商談も、当たり前になってきました。

私たちはスピード感を持ってPDCAを回して、愚直にやるべきことをしていくのみではないでしょうか。

おわりに

今回の取材では、平岡謙一さんに地方のWebマーケティングの実情と、今後支援会社に求められていることについてお話をお伺いしました。

 

「Webマーケティングに対してもっと謙虚になる」という言葉が、とても心に響きました。

Webでできることに囚われず、クライアントにとって今一番重要なことは何かを考え伝えられるパートナーが今、求められているのかもしれません。

 

 

聞き手:臼井、瀬川
文章・写真:瀬川