日本の全企業数のうち、中小企業が占める割合は99.7%と言われています。
一方で地方の中小企業には、まだまだWeb集客がうまくできていないところも多いのが現実です。
そこで今回は、静岡でWeb集客支援に取り組んでいる株式会社サンロフトの永井さん、鈴木さんに「地方でWeb集客を進める上で大切なこと」についてお話を伺いました。
地方でWeb集客で取り組む企業のみなさま、Web集客の支援に携わる方々はぜひご覧ください。
株式会社サンロフト 永井 浩由さん
静岡県出身。大手メーカー・SIer向けのソリューション営業の経験を経て、2014年にサンロフトへ入社。 CMOとして自社サービスのマーケティングに携わりながら、クライアントワークにも従事している。1日1,000記事を読んで情報収集するのが日課。
株式会社サンロフト 鈴木 ゆかりさん
静岡県出身。新卒でサンロフトに入社。度重なる社内転職を繰り返した後、2020年より現在のマーケティング事業に携わる。担当しているメルマガ「今日は木曜日」は、毎回お客様からお返事が来るほど人気コンテンツ。唐揚げとお酒好き。
永井さん、鈴木さんが2人でWeb集客支援をはじめるまで
静岡でWeb集客をしたいと、まずは東京で学んだ
瀬川:永井さん、鈴木さん、今日はよろしくお願いします。お二人は静岡の企業様を中心にWeb集客の支援をされていると思いますが、どういった経緯で今に至ったのでしょうか。
永井:学生時代からパソコンが得意だった僕は、将来Webの道に行きたいと思っていました。
当時、会ったことがない人と会話できる「PostPet」なんてサービスも登場し、世界が変わるなと漠然と思っていたからです。
ただ、当時の静岡には、Webの採用枠がほぼない状態だったんですよね。また、僕はWeb制作を学んでいましたが、その過程で制作よりも上流工程に携わるほうが自分には合っていると感じるようになりました。
そこで比較的大きな会社で営業を学んでから静岡に戻ってきたら戦えると思い、東京のシステム会社に営業として就職したんです。
27歳になったとき、地元に戻ることを決めました。
静岡がやっぱり好きですし、地元にはよい商品をつくっているのに、Webをうまく活用できていない企業が多かったのです。だからそういった企業さんを助けられたらと思っていました。
とはいえ、その頃でも中途で転職できる枠はほとんどありません。
ちょうどそのタイミングで学生時代の友人と話す機会があって、現在のサンロフトを紹介してもらい入社することになったんです。
瀬川:サンロフトに入って、すぐにバリバリWeb集客の支援を始められたのでしょうか。
永井:学生時代からサンロフトは知っており、最先端の知識を持った、優秀な人間が多くいるイメージでした。ただ実際入社してみると、Web集客に関する知識は私が一番持っている状態だったんです。
当時の社内は、Webサイト制作はしていましたが、それを集客に役立てる意識がなかったように感じます。
例えば、お客様からカタログを渡され「これをWebにしてくれ」という依頼があった場合、ただWebページにするだけで、ホームページを使って新規のお客様を獲得する方法まで提案していなかったのです。
それではWebの価値を正しく提供できないですし、かなり危機感を覚えましたね。
勝手にYahoo!広告の代理店に。1件ずつ地道にお話ししていった
瀬川:そこから具体的にどのように動かれたのでしょうか。
永井:まずは勝手にYahoo!広告の代理店に申し込み、サイト制作を手掛けたお客様を中心に広告の提案をすることにしたんです。
とはいえ、これまでWebは作っておしまいの状態。急にお客様にWeb広告の話をしてもなかなか理解されません。
お客様からすると、Web広告は胡散臭いみたいなイメージだったようです。
そこでお客様にはともかく分かりやすく、ていねいにお話しするようにしました。
例えば、「DMの成果が落ちてきていますよね。広告はクリックされてはじめてお金が発生するので、ターゲットを絞ると成果が出やすいんですよ」といった感じです。
すると少額でならやってみますかとの話になるので、まずは月1.5万円とかでアカウント運用を始めましたね。
そこからは泥臭い地道な営業を積み重ねました。
サイト制作の提案に同席させてもらい、勝手に提案を出してWeb集客の価値を伝えていきましたね。
今でもよく覚えているのが、とある団体さんの3社コンペです。
以前からご支援していた会社で担当者さんはガッチリ押さえていて、これは絶対に取れると思っていました。
しかし最終段階で、別部門から部長さんたちが大勢参加し、結局プレゼンが上手かった広告代理店を選ばれてしまったのです。
後日、担当者さんにお会いした時に「永井さんとやりたかったんだけど、申し訳ないです」と言われて。しかも受注した代理店は、うまく進められずプロジェクトが頓挫してしまったようです。
自分がうまく提案ができなかったゆえに、クライアントを幸せにできなかった。そんな思いがあって、今でも心に残っています。
社内にも地道にWeb集客の価値を伝えていく
瀬川:一方で社内にはどのようにWeb集客の価値を伝えていったのでしょうか。
永井:広告支援を始めると同時に、社内勉強会も開きました。自分がアクセス解析について話したり、マーケティング思考を持つデザイナーさんをお呼びしたりしましたね。
最初のうちは、営業側にも制作側にも、Web集客の思考がなかったので、「何を言っているんだろう」という感じの雰囲気でした。
ある時には営業の方から「お客様から求められていないことまで話を広げて、失注したらどうするんだ」なんて言われ、提案書を元に戻されたなんてこともありましたね。
4年間ひとりで地道にやってきて、空気が変わってきたのは、誰が見ても利益が上がってくるようになってからです。
そこからは徐々に社内の協力も得られるようになり、「永井君に任せるよ」と自由にやらせてもらえるようになりました。
そしてチームに鈴木が入ったことで、よりWeb集客に取り組めるようになりました。
社内転職を繰り返して気づいた「自分の強み」
瀬川:鈴木さんはどういった経緯で今の仕事に辿り着いたのでしょうか。
鈴木:私は、永井と全く逆でした。学生時代はとくにやりたいこともなく、強いて言えば人を観察するのが好きだったくらいです。
就活する中で偶然サンロフトを知りました。すでに選考は終わっていたのですが、試験を特別に受けさせてもらい、とんとん拍子で決まりました。あとで知ったのは、その年で唯一の新卒が私だったんです。
当時の私は、Webのことがまったく分かりませんでした。ブラウザという単語すら知らず、WindowsのパソコンにあるInternet Explorerのロゴマークをヤフーだと思っていたくらいです。
だから入社してからはかなり苦労しました。入社後の配属先は業務システムの営業サポートでしたが、専門用語が飛び交い、他の人が何を言っているか全く分からなかったです。
その後、社内転職を繰り返すことになり、ICT支援でWordなどの講師、協力会社へ出向しコールセンター業務、総務経理、自社のサービスである日報共有システムの部門といった流れで、様々な経験を積みました。
新しいことを毎回学び直すので、ずっと新人みたいな状況でしたね。
瀬川:鈴木さんは永井さんが引き抜いたと聞きました。どういう経緯があったんですか。
永井:鈴木が総務経理にいた時に、とても特徴的な社内報を送っていたんです。
例えば、ゴミ当番の案内ですら興味を持ってもらえるように、コピーを書いていたんですね。
2019年の暮れに、僕のキャパが限界だったので、鈴木に声をかけてWebサイトのユーザーテストを手伝ってもらったんです。
30分くらい見てもらったら、20個ぐらい改善点を指摘してくれて。主観から離れて、ユーザーの目線になって意見できるし、課題を言語化できることにとても感銘を受けました。
それからはちょくちょく意見を聞くようにしたんです。
鈴木:私は当たり前に感じたことを述べている感覚だったけど、想像以上に感動してくれていたんですよ。
ちょうど仕事に行き詰まって退職も考えていることを永井に話したら「それなら手伝ってよ」と言われたんです。
私はWeb集客なんて全く分からないし、変な期待をされたら困るけど、永井が1人で大変なのを知っていたので、まずは1年やってみることにしたんです。
サンロフトが進めた地方ならではのWeb集客
売らないメルマガでお客様との接点づくり
瀬川:鈴木さんと2人体制になって、どのようにWeb集客を進めていったのでしょうか。
永井:これまでは、私がすべて営業するスタイルでした。ただ営業を鈴木に任せるのではなく、彼女が持っているスキルを生かしたほうがよいと思っていました。
そこで、これまで取り組めていなかった、自社のWebマーケティングを任せることにしました。
これまでのサンロフトは、紹介とリプレイスの案件だけで十分回っていたので、Webを使って新規顧客を獲得する仕組みづくりができていなかったんです。
そこでメールマガジン、ウェビナー、SEO目的の記事執筆の3本柱で施策を進めることにしました。
鈴木:永井とは、とにかくお客様との接点をつくろうと話していました。
当時、社内には顧客リストがあったものの、全然生かせていなかったのです。
ちょうどコロナ禍になり、直接会いにいくことも難しくなりました。さらには使えるリソースは、私たち2人のみ。
だからWebを駆使してつながりをつくることで、何か必要になった時に自分たちの存在をまず思い出してもらうことにしました。
ただメルマガをはじめる際、自分が受信する立場になって考えると営業されるのは嫌だったので、ともかく営業色は出したくないと思いました。
自分たちを押し売りせず、毎週続けられる内容を発信したいと試行錯誤した結果、現在の「今日は木曜日」の形になりました。
ちょうど自分の勉強も兼ねて情報取集していたので、その学びをお客様に共有できたらいいなと思ったんです。
メルマガでは、大きく3つの記事を紹介しています。
1つは単純に癒されるとか、面白いといった話。次は、マーケティングに絡めたもの。
あともう1つは、上手な文章の書き方といったノウハウ系、ビジネスで活かせる考え方といったような記事などです。
全部が真面目すぎてもつまらないし、面白い話だけではお客さまにとって役立つものではなくなるので、バランスを見て選ぶようにしています。
瀬川:売らないメルマガをはじめますと言うと、何のために配信するの?と言われませんか。
鈴木:もちろん、最初は社内理解を得るのが大変でしたね。当初は、純粋に記事の紹介のみだったので。いろいろ話して、渋々自社サイトへのボタンを付けることにしました(笑)
セミナー×コミュニティでお客様とつながる
瀬川:同じタイミングでセミナーも始められたと思いますが、悩んだことなどありましたか。セミナーは簡単過ぎても、難しすぎてもお客様の満足度は上がりませんよね。
永井:私たちも同じような悩みがありました。
やってみて分かったのは、集客時の打ち出し方と実際の内容とのギャップをいかに無くすか。そのギャップを埋めれば、思っていたのと違ったという声もなくなるはずです。
最近では、セミナー受講者限定のコミュニティーづくりにも取り組んでいます。
数多くウェビナーが開かれる中、競争優位性があるものをいつも提供することは大変です。
だからウェビナーではさわりの部分をお話して、より詳しく知りたい方はコミュニティーに引き込む形にする流れをつくれば勝ちではないかなと思ったんです。
例えば、「デジタルマーケティングツールを●個紹介します」のようなセミナーを開催します。
ぶっちゃけた話、ツールを紹介されただけでは活用できません。とはいえ興味を持つ方は多いはず。
だからコミュニティーで、具体的なツールの活用方法を限定コンテンツとして発信する。
そして使ってみると意外と難しいと気づくので、専門家である私たちに声をかけてもらう。
こういった流れをイメージしています。
他にも鈴木と2人で、メルマガで紹介したWebの記事を噛み砕いてラジオ風にYouTubeで配信する。無料コンサルを募集してコミュニティ限定公開で配信する。
こういった体験を通して、私たちがどのようにWeb集客をコンサルしているか理解してもらえるようにしています。
お客様にとっての本当の「あたたかさ」とは
臼井:どういったきっかけで、お客様はサンロフトさんに声をかけられるのでしょうか。
永井:多いのは、サイトリニューアルをしたが思ったような成果が出ず、再リニューアルを頼まれるケースですね。あとは「サンロフトさんに任せたらどうなりますか?」ともよく聞かれます。
一方で、マーケテイングはアウトプットが見えづらいため、その価値をなかなか分かってもらえないもどかしさは感じています。
時には「サイトぐらいタダで作れるでしょ」なんて声をいただくこともあります。だからこそ実績や実例などを伝えて、お客様にひとつひとつ理解してもらうようにしています。
あとは、そのお客様が勇気を出して投資ができるかどうかに尽きます。
ともかくその判断ができるように後押しをするだけですね。
瀬川:お客様を支援する中で、心がけていることはありますか。
永井:話を聞いていると、Webで集客できていないという漠然とした課題はあるものの、ボトルネックまでは気づけていないケースがほとんどです。
だから私たちはお話を聞いた上で、課題を整理していくことがとても重要だなと感じています。
あとは、「あたたかさ」を持つことですかね。
会いに行くことは非効率ですよね。でも地方ではまだオンラインでの打ち合わせに慣れておらず、メールでのやりとりもあたたかさが感じられないから嫌だと言われる方も大勢みえます。
だから「会いに来てくれ」と言われるケースが多いのですが、私は会いに行くことがあたたかいとは思わないんです。
事実としては、会いに行くことに価値を感じてくださる方も多いのですが。
むしろ時にはお客様にとって耳が痛い話でも、それでもきちんと伝えることが本当の「あたたかさ」だと思います。
Web集客に関する相談を受けると、その人が抱えている課題が実はマーケティングでなくて組織や経営の課題だったりします。
すると、自分に求められていることだけを答えるのではなく、本気でその方のことを考えてお話するべきだなと。
だからどう考えてもうまくいかないと感じる場合は、投資してもらってもお客様にとっては損失になってしまいます。
そのリスクはきちんと伝えて、それで仮に失注してしまっても個人的にはよかったと思っています。
本当に必要としてもらえるまでは売らない
鈴木:私は、お客様に対して売ろうという気持ちがあまりないんです。
本当に必要だったら、こちらが売り込まなくてもお客様から必要としてくれると思っています。
売るための嘘はつきたくないですし、本当にお客様のためになることに目を向けていたいと日々思っています。
お客様のためにという点でいうと、メルマガにおいても、あえてセオリーどおりにやらない部分をつくっています。
もちろん、基本の部分はセオリーを参考にしていますが、文章にこそ感情は乗ると思っていますし、送る先にいる人たちに目を向けて取り組んでいます。
メルマガの送信先リストにいる95%くらいの人たちは、私のことを知りません。急にメルマガが届くようになって、それでも読んでくださる方がいるなんて、とてもありがたいじゃないですか。
ある時、社内を歩いていると、「そういえば、鈴木さんっていらっしゃいますか?」という声が聞こえたんです。
実は、その方は私のメルマガにはじめて返信をくださった方で。偶然来社されていて、奇跡的にすれ違ったんです。
「それは私です!」とお話したら、すごく盛り上がったなんてこともありました。
自分が携わるメルマガに、自分が支えられていると感じています。
読んでくださっている方がいるから続けられている。だからお会いできたらお礼を伝えるようにしています。
地域こそマーケティング思考が根付かなくてはいけない
瀬川:今後どういったことをしていきたいなどありますか。
永井:そもそもマーケティング思考自体は、専門家だけでなく誰しもが持っているべきです。
静岡の方たちにこの考え方が根付いていかないと、市場も自分たちのサービスも成長していきません。
だから先ほどお話したコミュニティなどを通して、お客様にもマーケティングを学んでもらい市場をつくっていきたいなと。
鈴木:私も、今の仕事に携わるようになって1年半ほどですが、少しずつ地方でもマーケティングに興味を示す人たちが出てきていると感じています。
だからこそマーケティングの価値を正しく伝えていきたいですね。そのためには自分たちもスキルアップして、自然と頼ってもらえる存在になりたいなと思います。
瀬川:地方でWeb集客をされている方に何かひとことあればお願いします。
鈴木:私としては「自分でもできるから、みんなできるよ」と伝えたいです。
何もできなかった未経験の私でも、自分に向いていることを見つけてくれる存在がいれば、私にもできるんだと。
マーケティングはとても輝かしい世界という印象を持っている方も多いですが、現実は地味でコツコツやり続けることで、ようやく結果がついてくる感じです。
一人ではできないので、一緒に誰かとやっていくのがよいのかなと思います。
永井:地方マーケターの方には「一緒に頑張りましょう」とお伝えしたいです。
地方企業が盛り上がっていかなければ、日本全体が厳しいと思います。
地方企業がきちんと輝くためにも、地方マーケターこそ頑張っていかなければいけません。
とはいえ、私1人が頑張っても難しいです。
だから地方で頑張るマーケターのみなさんが力を発揮することで、地方全体として盛り上がっていければなと。その意味で、一緒に頑張っていきたいですね。
おわりに
今回の取材では、サンロフトの永井さん、鈴木さんに地方でWeb集客を進める上で大切なことについてお伺いしました。
永井さんたちは今、静岡にあるWeb集客支援会社とゆるやかなネットワークをつくって、マーケティング思考を根付かせようと奮闘されています。
こういった動きが全国に広がれば、きっと地方企業がよりWebを活用して伸びていき、地域が変わっていくのかもしれません。
聞き手:臼井、瀬川
文・写真:瀬川