本当の強みにまず気づくこと。エドランド工業 久保氏に聞く地方の企業がWeb集客を成功させる方法

今まで当たり前だった展示会や対面営業が難しくなった今。

BtoB企業の多くがその影響を受け、打開策としてWeb集客に取り組む企業も増えています。

 

とはいえ、思ったような結果が得られないと悩んでいる担当者の方も多いかもしれません。

そこで今回は、岐阜県関市にあるエドランド工業の久保さんに、地方企業がどのようにWeb集客に取り組んだらよいか、お話をお伺いしてきました。

 

エドランド工業は、創業100年を越える老舗の工業用機械刃物メーカー。

新規営業すらいなかった企業の中で、久保さんは営業未経験、Web経験ゼロからWeb集客の仕組みをつくり、6年で1,100件もの問い合わせを獲得しています。

 

地方でWeb集客に携われている企業のみなさまは、ぜひご一読ください。

 

(聞き手:臼井、瀬川)

 

エドランド工業 久保 有希さん

岐阜県関市出身。京都大学を卒業後、大手ゼネコンで設計・現場監督に携わる。2012年に株式会社エドランド工業に入社。営業経験なし、Webマーケティング経験なしの中、一からWebからの問い合わせが入る仕組みづくりを進め、現在売上の1割強まで成長させている。

久保さんがWeb集客を始めるまで

土木系の学部から大手ゼネコンへ

瀬川:久保さん、今日はよろしくお願いします。久保さんは会社でただ1人のWeb担当者として活躍されていると伺っています。どういった経緯で今の仕事を始められたのでしょうか。

 

久保:大学時代に遡るのですが、僕は土木関係の学部にいました。

当時は、津波襲来時の避難シミュレーションをするため、FORTRANと呼ばれるプログラム言語を使っていました。

まだwindowsが世の中に無い小学生時代から家にパソコンがあったため、パソコンには明るかったと思いますね。

 

24歳で大学院を出て、大手ゼネコンに入社します。

最初の2年くらいは本社で設計をし、その後の5年は現場監督をしていました。

 

新幹線の車両基地の建設などに携わり、主に現場管理(工程、進捗、安全)や書類作成などの業務をしていたのです。

完成時には大きな構造物、いわゆる「地図に残る仕事」ができるので、やりがいのある仕事でした。

 

ただ、仕事はとてもハードで、土曜日出勤が当たり前。

17時まで現場で働いてから事務所に帰り、遅くまで事務仕事をする感じでした。

 

 

ある日、所長との面談でこんなことを言われました。

「現場で1億円の赤字出しちゃって、もう俺の首なんてどうにでもなれって気持ちだよ」と。

 

この話を聞いて、この職場での未来が見えなくなりました。

それまでの仕事を振り返ってみると、たとえ小さな現場でも自分1人に任された仕事が、やりがいがあって楽しかったことを思い出したんです。

そこで30歳を越えたタイミングで、ゼネコンの仕事を辞めることにしました。

会社でただ1人の新規営業担当。しかも営業未経験

提供:株式会社エドランド工業

瀬川:ゼネコンを辞めて、どうされたのですか。

 

久保:実家に戻ってきて、エドランド工業で生産管理と営業の仕事をすることになりました。

当時の弊社は、一部の大企業に売上が依存していました。

 

もちろん既存のお客様に対する営業担当はいましたが、新規営業を担当する社員はおらず、新規案件は紹介のみ。

ただ試作案件の問い合わせが少しずつ増えており、ここに注力しようと思いました。

 

ただ私自身、まったく営業経験はありません。何から手を付ければよいか分かりませんでした。

とりあえずテレアポをしたり、展示会に逆営業しに行ったり、公的機関が主催している商談会に参加したりしました。

数ヶ月やってみて少し結果は出ましたが、知らない人に自ら営業するのはストレスがかかるし、大半が断られる。

やはりこのスタイルは向いていないと感じていました。

 

 

また完全に自己満足ですが、この時に新しくホームページもつくりました。

とりあえず独自ドメインを取って「機械刃物.com」というサイトを立ち上げたのです。

 

臼井:普通、自社のホームページをリニューアルすることを考えますよね。

あえて別サイトを立ち上げたのは理由があったのでしょうか。

 

久保:実は、ゼネコン時代に台湾でダム建設に携わったことがありました。

中国語がメインなので、言葉もろくに話せず、書類作成もできないので、日本での多忙な生活とは異なり、基本的に定時に帰宅していました。

 

その時あまりに暇だったので、ブログをつくってお小遣い稼ぎをしていたのです。

その経験があったので、会社とは別にSEOで集客できるサイトをつくろうと思ったのです。ただ全く結果は出ませんでした。

 

その後、新しいことを勉強するのが好きだったので、いろいろなセミナーを探して参加するようになりました。

基本的に会社の経費は使えなかったので、商工会議所などが主催する無料セミナーや、自腹で有料セミナーに参加したりしましたね。

たった1人でWeb集客の仕組みをつくった方法

自社のことを知るために、ともかくヒアリングした

瀬川:Web集客を本格的に取り組むようになったのはいつ頃からでしょうか。

 

久保:2013年10月に、愛知産業振興機構が主催していた「実践BtoBマーケティング」セミナーに参加しました。

講師の佐藤義典先生からは、「自社が考える自社の強みと、お客様が考える自社の強みは異なる。だから顧客ヒアリングをしましょう」と言われました。

 

またその翌年の2014年8月からは、同じく愛知産業振興機構が主催する「B2BWebマスター養成講座」セミナーに参加しました。

半年かけてホームページをつくっていく講座です。

そのセミナーの講師である村上肇先生からは、「あなたの会社は何の課題を解決してみましたか」「会社が持続し得た物語は何ですか」と尋ねられました。

 

ただ、私はすぐに答えられませんでした。

そして入社して2年経っているのに、仕事のこと、会社のことなどを何も知らないことに気付いたのです

 

 

私の中でこの2つのセミナーの内容が結実しました。

「せっかくホームページを作るなら、自社の強みを徹底的にヒアリングしてみよう」と。

 

そこで、社内の若手・ベテラン、OB、親戚に話を聞きに行ったり、営業担当に同行して取引先など20名くらいに顧客ヒアリングしたりしました。

そして「うちの会社の強みは何か」「なぜ仕事を頂き続けているのか」をひたすら聞きに回ったのです。

ヒアリングを通じて気づいた自社の本当の強み

短納期

提供:株式会社エドランド工業

久保:ヒアリングして分かったのは、意外にも「弊社が短納期であること」でした。

当時、納期は3週間ほど。まさか納品が早いと思っていませんでした。

しかしお客様に聞くと、他社は1ヶ月以上かかっていたのです。その理由は、生産の仕方にありました。

 

刃物の製造は、大きく5つの工程があります。一般的には、それぞれの工程を専門会社が分業しています。

それぞれの工程で1週間ずつかかるとすると、合計で納期まで5週間かかりますよね。

 

しかし、弊社はほとんどの工程を内製しているので、他社に比べて短納期だったのです。

短納期が強みであることが分かったので、さらに機械を導入して生産管理を改善することで、最終的には最短1週間で納品できる体制をつくりました

 

お客様からしたら「自社一貫生産」と言われても何も嬉しくありません。

でも「1週間で納品できます」は、他社に簡単には真似されず、お客様には強力な訴求になるのです。

 

臼井:まさにUSPの教科書に載っていそうなお話ですね。自分たちの中に強みがあったけど、ヒアリングをする中でその強みに気づけた。

 

機械刃物の画像

提供:株式会社エドランド工業

久保:あるお客様からは「製品が日本刀みたいに綺麗だね」と言われました。

実は、弊社の創業者は刀匠「兼景」の第18代目。弊社の製品は、日本刀から続く歴史を受け継いでいたのです。

これは売りになるなと思いました。

 

また40年ほどお付き合いのあるブラザー工業の担当者さんには、こんな話を聞きました。

「ミシンの部品はほぼ中国製だけど、刃物だけは品質が重要だから日本製を使っている」と。

 

これまで自分たちは下請けの会社で、ただ単に機械の1部品をつくっているだけだと思っていました。

でもこの話を聞いて、そこまで重要なパーツをつくっていたんだと、自信を持てたのです。

ホームページを新しく立ち上げたところ、すぐに注文が来た。

qoncut.com

瀬川:自社の強みなどが分かった後、次はどういったことをしたのでしょうか。

 

久保次は、ホームページに載せる文章に落とし込んでいきました。文章は、社内で多くの社員にヒアリングして一字一句自分で書きましたね。

 

また新しくドメインも取り、「クオンカット」と名付けました。

これは強みである耐久性向上(Quality)、短納期対応(Quickly)、薄刃小型刃物(Quarter)の頭文字、また創業者の戒名「久遠」から取っています。

企画や構成もすべて自分で作った上で、それを制作会社さんにお願いしました。

 

セミナーに参加する前は、ホームページができるのは2年後くらいかなと思っていました。

でもセミナーで色々話を聞いて、自分の中でのスイッチが入ったのでしょうね。

制作にのめり込み、半年後となる2014年12月にホームページが完成しました。

 

瀬川:ホームページを公開してから反響はありましたか。

 

久保公開して数ヶ月後には、自然検索のみで月1~2件のお問い合わせが来ました。

それまで全く繋がりのない企業からの受注はゼロだったので、とても嬉しかったですね。

自分でリスティング広告を出稿したが挫折。でも基本からやり直した

瀬川:ホームページを立ち上げられた後、集客施策は何かされたのでしょうか。

 

久保:立ち上げ当初は自然検索のみでしたが、その後リスティング広告を自分でやってみました。

とりあえず5万円ほど広告を出したら、知らない間にお金がどんどん使われていく。

怖くなってしまい、広告は止めてしまいました。

 

その翌年の2016年2月に、お誘いいただいて「Googleアナリティクスを使ったサイト改善事例」というセミナーに参加しました。

講師は、森野誠之さん。GoogleアナリティクスやSEO、ページタイトルの付け方、広告などについて教えていただきました。

 

当時の僕は、検索連動型広告とディスプレイ広告の違いも分かっていませんでした。

森野さんからは「まずは検索連動型広告からやってみたらどうですか」とアドバイスをいただき、再び広告を出してみることにしました。

 

とはいえ、どのような広告キーワードに出したら良いか分からない。

そこで森野さんに同業者の名前を伝えたところ、いくつかキーワードを教えていただきました。

そこで数万円で広告を回してみると、広告費4.7万円でお問い合わせが17件来ました。これは驚異的な数字です。

 

臼井:広告がうまく回りはじめて、その後はどうされたのですか。

 

久保:Google広告がうまく回り始めたので、Yahoo!広告も横展開ではじめました。

それから広告予算を増やして、自分で地道に改善を重ねました。

 

例えば、同時期に競合他社も広告を出していました。

ただその会社は商社だったんです。そこで広告文に「自社生産」と入れて、相手が同じ土俵に来ないように改善していきましたね。

 

瀬川:「競合を見て、広告キーワードを変えよう」との発想はどこで得たのでしょうか。

 

久保:ここでも以前参加したセミナーが役に立ちました。

どれだけ自分たちが強いと考えるメッセージを出しても、競合他社でも書ける内容なら差別化できません。

だから、競合に真似されないメッセージを考えるのが大事ですね。

 

また自分で集客したお客様は、基本的に自分で最後まで担当しています。

もちろん製造の部分は現場の方にお願いしていますし、顧客対応や見積算出も自分だけではできません。

 

しかし、顧客対応、見積書の作成、作業指示書の作成、顧客のフォローアップまで、製作以外はすべて丸投げせず直接関わるようにしてきました。

お客様と直接やり取りしているからこそ、どんな訴求がお客様に響きやすいかもすぐ思いつくのだと思います。

ヒートマップを使って広告とLPを改善

瀬川:その後はほかに施策をされたのでしょうか。

 

久保:しばらくホームページと広告だけでした。

ただ2019年頃から広告のパフォーマンスが落ちてきて、お問い合わせ1件あたり広告費が高額になっていました。

時を同じくして、コロナ禍になり仕事も落ち着いていたので、次の展開としてLPを制作することにしました。

 

実は、以前セミナーに参加したときも、講師の方から「LPをつくったほうがよい」とのアドバイスをもらいました。

ただその時は、どこか売り込み色が強いLPに嫌悪感があったのか作ることはありませんでした。

 

しかし展示会に出るようになって、その認識が変わりました。

展示会で配布するチラシをつくっている時に、このチラシはLPみたいなものだと気づいたのです

 

展示会に出ていた頃、「1個からオーダーメイドできますよ」と呼びかけると、一番お客様の反応がよかったのを思い出し、それをキャッチコピーにしました。

LPに必要な素材はすべてチラシに揃っていたので、ペライチを利用して作成しています。

触ってみたら、とても簡単に作れて正直驚きましたね。

 

提供:株式会社エドランド工業

瀬川:LPに対しては何か改善施策をしていったのでしょうか。

 

久保:広告を運用していて一番モヤモヤしていたのが、結果が出ている理由でした。

私たち製造業は、電話でのお問い合わせが半分以上です。

もちろん電話コンバージョンなどの手法もありますが、実際のお問い合わせは固定電話でかかってきたり、FAXが送られてきたりするので、正確に測定することは困難です。

 

そこでLPの成果を見るために、「ミエルカ」というヒートマップツールを導入してみました。

私1人で施策をしているからこそ、改善するにも数字などのデータなどの確かな根拠が欲しかったのです。

 

ヒートマップツールを使って分かったのは、スマートフォンではほとんど読まれていないこと。またディスプレイ広告も反応が悪かったこと。

そこでスマホ専用サイトを立ち上げたり、ディスプレイ広告は予算を削減し、その分を検索連動型広告に振り替えたりしました。

 

また刃物の事例がよく見られていたので、ページの上部へと移動しました。

さらには、お問い合わせに至らない方のためにカタログ請求フォームも設置しています。

 

こういった改善施策を重ねることで、CPAは2割~3割程度改善され、現在はWeb経由の売上が全体の1割程度になっています

地方の企業がWeb集客を進めるために

自分たちでやること、プロに任せることのバランスを取る

瀬川:地方の中小企業がWeb集客を進めていく上で、どういったことが重要なのでしょうか。

 

久保自分たちでやる部分とプロに任せる部分のバランスが、非常に重要です。

自分でやり過ぎると、およそ失敗します。逆にプロに任せすぎると、とてもお金かかってしまいます。

またプロに任せっぱなしだと、知見は貯まりません。

 

もちろん人によっては、できるだけ費用をかけたくない人もいれば、自分でできないから任せたい人もいます。

だから、ちょうど良い塩梅を見つけることが大切だと思います

 

もちろん僕も最初からホームページをつくったり、広告を出したりできた訳ではありません。

実際、最初につくったホームページは全く結果が出ませんでした。だからこそ、うまくプロに頼むことは重要でしょう。

 

あとは、自分で情報を取りにいくことですね。

今は東京まで行かなくても、地方でも探せばいくらでも学ぶ機会はあります。そういった機会を活用するといいですね。

BtoBだから特殊ではない。最初の一歩はBtoCと同じ

瀬川:地方でWeb集客に取り組んでいる方に何かアドバイスはありますか。

 

久保:BtoBのWebマーケティングというと、何か難しそうな気がします。

しかし、BtoCでよく言われることをBtoBの観点で取り組めば、結果は出るはずです

 

例えば、先ほど話した自社の強みを見つけことは、BtoCの世界では当たり前です。

ホームページに「弊社には研磨機が10台あります」と書かれても、お客様にとっては役に立つ情報にはなりません。

 

BtoB企業の多くは、展示会などを使っているはずです。

であれば、リアルでお客様と話している言葉をホームページに載せるだけで、違ってきます

 

実際このコロナ禍でも、弊社には月80件近い問い合わせが来ています。

どういった言葉がお客様に一番刺さるかを考えみることが大切ですね。

おわりに

今回の取材では、エドランド工業の久保さんに地方企業がどのようにWeb集客に取り組むかお伺いしました。

取材の中で、エドランド工業の久保さんはこう言われました。

 

「自分たちの価値は、自分自身の中にあったんです。」

 

一見当たり前だと思っていたことが、実はお客様にとって価値がある。それを研ぎ澄ませば他社と差別化できる強みになる。

その強みをお客様に分かりやすく伝えれば、Web集客を伸ばす原動力になっていく。

 

改めて自分を見つめ直すことが、Web集客の第一歩になるのかもしれませんね。

聞き手:臼井、瀬川
文・写真:瀬川