Webマーケティングを行う際に、施策効果を判断するために重要なKPI。
正しく設定すれば、組織にとって目指す方向性を明確にしてくれます。
一方で、間違ったKPI設定を行なってしまうと、組織が違う方向を目指してしまいます。
せっかく時間やお金をかけてもゴールから遠ざかるなんてケースもあるでしょう。
これまでさまざま企業さまのデジタルマーケティングを支援をする中で、関係者全員の認識を統一するため、KPI設定をお手伝いしてきました。
そこで正しいKPI設定をする難しさと、適切なKPIがマーケティング活動を大きく飛躍させる姿を見てきました。
そこで今回は、不適切なKPIを修正したことによって、組織が自走して大きな成果を上げた事例を紹介します。
経営やマーケティング活動に携われる方は、ぜひご一読ください。
KPIとは?
「重要業績評価指標」などと訳されます。デジタルマーケティングの世界では、マーケティングを行い目標達成するために、施策やプロセスが適切に行われているかを計測、評価するために用いる指標です。
とある会員向け学習サイトのKPI事例
弊社がこの案件に関わったのは、サービス立ち上げ直後。
最初のKPIは、「無料トライアル会員の増加数」でした。
クライアント様には、
- 新規ユーザーを集めるためのマーケティングチーム
- サービス内容を作るオペレーションチーム
の2部門が存在していました。
そしてどちらのチームも同じKPIである「無料トライアル会員の増加」を目指していました。
マーケティングチームは無料トライアル会員を増やすために、大きな広告投資を行っていました。
具体的には、検索連動型広告、ディスプレイ広告、アフィリエイト広告などです。
KPIを達成するために、チームは本当によく頑張っていたと思います。
しかし質のよい(本当にサービスを必要としている)ユーザーだけでなく、サービスを使うか分からないような少しニーズの弱いユーザーも集めていました。
「いま登録すれば○○プレゼント」といったインセンティブを付けていたため、「とりあえず登録してみようか」といったユーザーも多かったのです。
他方でオペレーションチームも、無料トライアル会員を増やす努力をしていました。
サイト内で提供できるサービスリソースを、有料会員ではなく、無料会員向けに振っていたのです。
チームのKPIは無料トライアル会員を増やすことだったため、この動きは起こるべくしておきたと言えます。
月に1度の打ち合わせでは、KPIの進捗と、そのKPIを達成するために実施したことを報告しあっていました。
もし私がこの組織の中の人として働いていたら、与えられたKPI達成のために同じように動いていたと思います。
KPIは達成したが、最終目的からは遠ざかっていた
改めて書くと、KPIは目標達成するために、施策やプロセスが正しく行われているのかを推し量るために設定します。
すなわち、KPIを達成していければ、最終目標(=売上アップ)に繋がっているはずです。
しかし本件においては、KPIである無料トライアル会員は増えていたにも関わらず、売上は横ばいでした。
それはなぜでしょうか?
まずマーケティングチームの努力の甲斐もあり、無料トライアルのお申込みは増えました。
さらにオペレーションチームがサイト内のリソースを無料トライアルに充てていたため、無料トライアル会員には満足いただけたと考えています。
しかし、必要以上にお得なキャンペーンで集めたユーザーは、正直なところあまり質が高いとは言えません。
そういったユーザーは、無料サービスで満足してしまい、有料プランへの転換はしにくかったのです。
さらにサイト内のリソースを無料トライアルに振ってしまったため、有料会員向けのレッスンの質で問題が出てしまいました。
結果として、せっかく集めた無料会員の人たちは有料会員に転換しないばかりか、有料会員の方たちは解約してしまう状態になりました。
KPIは達成していたのに、目標である売上アップから遠ざかってしまったのです。
このように間違ったKPIを見ながらデジタルマーケティングに取り組むと、サイト運営はうまくいきません。
これではカーナビゲーションが故障している車で目的地を目指すようなものです。
KPIを再設定すると一気に加速した
そこで改めて最終目標を確認しました。
もちろんそれは、売上高のアップです。(実際には、どの程度売上をアップするのか具体的な数字で議論します)
そして最終目標である売上高アップのために、どこに課題があるのか深堀りしていきます。
売上高アップのためには、
- 課金してくれるユーザー数を増やす
- 課金してくれる1人あたりの金額を増やす
のどちらかになります。
当初、無料の会員トライアル会員を増やせば、それに伴って有料会員が増えると考えていました。
しかし実際には、無料会員から有料会員にはあまり転換しなかったため、このKPIではダメだったのです。
では、有料会員の増加数をKPIにすべきでしょうか?
それであれば、課金してくれるユーザーを増やすことになるため、売上も伸びそうです。
すると、有料会員の増加数をKPIと置くのは悪くない気もします。
しかし改めて考えてみましょう。
当初、オペレーションチームも含めて、無料トライアル会員を増やす方向で施策を進めました。
すると有料だった会員まで退会してしまう事態となりました。
KPIとして有料でも無料でも、数を追ってしまうと短期的には利益が出せそうです。
しかし長期的な目線で見ると、最終目標である売上高アップは達成できないのではと考えました。
最終目標である売上高アップのために、課金してくれるユーザーを増やしていく。
このために重要なのは、課金してくれるユーザーを増やすのではなく、課金してくれるユーザーを減らさないことだと考えました。
そこでKPIを無料トライアル会員の増加数から、有料会員に対する退会ユーザーの割合としました。
(退会ユーザー数ではありません、理由は後述します。)
KPIはおかしいと思ったら変えればいい
KPIを有料会員に対する退会ユーザーの割合にしたら、どうなったでしょうか。
(実際には目指す割合と、達成する期日を数字で明確化しています)
マーケティングチームは、とりあえず登録してすぐに退会してしまうようなユーザーではなく、自社サービスを本当に必要としているユーザーに向けたメッセージを配信するようになりました。
同時に必要以上のキャンペーンは止め、サービスを必要とする人に絞った訴求、広告活用に切り替えました。
その結果、無料トライアル会員の増加数は減りましたが、有料会員になる方はむしろ増えたのです。
しかも継続的に使ってくれる方が増えたため、KPIである有料会員に対する退会ユーザーの割合は着々と良くなりました。
またオペレーションチームは、有料会員を満足し、継続してもらうために、提供サービスの改善に意識が向きました。
有料会員を減らさないためには、お客様が続けたいと思う最高のサービスを提供する必要があります。
そこで教材や授業の内容を改善することで退会ユーザーの減少、そしてKPIの達成を目指しました。
今まで無料会員に向けていたリソースを有料会員に向け、本当のお客様は誰なのかも明確になっていったのです。
ここで、退会ユーザー「数」ではなく、退会ユーザー「率」としたのはなぜか。
それは退会ユーザー数を減らそうとすると、新規の会員を増やさない方に意識が向くのを避けたかったからです。
新規会員が増えなければ、連動して退会者も減ります。しかし、それでは本末転倒です。
そこで新規の有料会員を獲得することでKPIの達成にも貢献できる「有料会員に対する退会ユーザーの割合」としたのでした。
まとめ
今回の記事では、適切なKPIを立てる重要性について事例とともに紹介しました。
組織を構成するメンバーは同じでも、目指す方向を決めるKPIの設定次第で事業成果は大きく変わります。
施策を実施する際に、評価をするために設定するKPI。
このKPIがズレていると組織は間違った方向に進むことになります。
いま設定しているKPIが正しいのか、このKPIを目指していると最終目標を達成できるのか。
ぜひ今一度振り返って考えてみてくださいね。