地方で活躍するWebマーケターさんにお話を聞くこのシリーズ。
第7弾の今回は、兵庫を拠点にマーケティング支援をされている、みらいマーケティング本舗の堀野正樹さんです。
堀野さんは現在、ECコンサルタントほか、外部CMOとして企業に深く関わるスタイルでマーケティングの支援をしています。
そんな堀野さんに、地方のWebマーケティングの現状、そして現在の活動内容についてお話をお聞きしました。
地方でマーケティングに関わるみなさまは、ぜひご覧ください。
みらいマーケティング本舗 堀野正樹さん
兵庫県出身。みらいマーケティング本舗 代表。旅行サービス、人材会社など数社でインハウスのマーケティングに携わり、前職では大手ウォーターサーバーのマーケティング責任者として年商70億円まで事業をグロースさせる。2019年に独立し、現在はECコンサルタントや外部CMOとして企業のマーケティング支援を行っている。
Webサイト:https://mirai-marketing.jp/
Twitter:@horino_ec
堀野さんのマーケティングとの出会い
瀬川:堀野さん、今日はよろしくお願いします。堀野さんは現在ECサイトのコンサルとして活躍されていますが、元々デジタルとかWebには明るかったのですか。
堀野:小さい頃から触れる機会はあったかもしれません。実は親父が新しい物好きで、小学生の頃に家にパソコンがあったんです。
当時は1980年代で、PC-8800というマイコンです。見よう見真似でプログラミングを組んだりして遊んでいました。
ただ大学は文系で、特にWebとは無関係でしたね。
最初に就職したのが、会員制の旅行サービス会社でした。
お客様に対して定期的にサービスを案内する会報誌を発行していたのですが、入社3〜4年の頃に、会報誌をデジタル化してWebで情報発信する事業を提案したんです。
会員に比較的若い方が多かったので、会報誌をデジタル化すれば利便性も高まって、退会者数の減少が見込めると思ったからです。
すると、すぐ成果が出て、なんと20%も解約が減ったんです。
紙の誌面だと年4回しか発行できなかったのですが、デジタル化することで毎月情報を発信できるようになりました。
お客様が情報に触れる頻度を高めることで、サービスのお得感をしっかりと理解していただき大幅に利用率が上がりました。
社内からは「そんなに安い投資でこんなに成果出るの?」とお褒めいただきましたね。
瀬川:凄まじい結果ですね。当時からマーケティングに対する知見はあったのですか。
堀野:Web担当者として働くうえでの必要性を感じて、自腹でマーケティングやWebディレクションを学べるスクールに通っていました。
また社内から2名だけ派遣される、次世代リーダー育成講座にも志願して、半年ほど学びました。
そこでは簡易版のMBAプログラムを受講して、マーケティングを体系的に学ぶことができました。
効率よくインプットして、それをすぐに実践できる環境があったのはすごく大きかったと思います。
4人の部署からスタートして、12億の予算を動かすまで
瀬川:その後、どういったキャリアを築かれたのでしょうか。
堀野:その後、人材派遣会社やベンチャー企業など2社を挟んで、ウォーターサーバーの会社に転職します。
家庭の事情で兵庫県の地方都市に引っ越すのですが、自宅の近くでWebマーケティングに関われる仕事がないかと探していたところ、偶然見つけたのです。
面接で社長・専務・常務に対して「僕ならこうします!」と提案をしたところ、気に入っていただけたのか、すぐに採用となりました。
瀬川:当時、社内はどう言う状況だったのですか。
堀野:売上は伸びているけど、社内の組織は全く整っていないし、Webがわかる人間はほとんどいない状態でした。
マーケティングの経験者は僕一人だけ。追加採用はできないので、他の部署から未経験メンバーを集めてきて、4人でスタートしました。
入社して最初にとりかかったのが、サイトリニューアルでした。
僕が入社したのは、ちょうど東日本大地震が起きたタイミングで、水への安全意識が非常に高まっていた時期だったので、何もしなくても水が売れていたのです。
当時のサイトはイマイチだったのですが、そこそこ売れてしまうので後回しになっていたんですね。
でもきちんと作ればもっと売れるはずだと思い、経営者に「サイトリニューアルさせてほしい」「SEO対策を進めたい」と提案します。
ちょうど会社としても何とかせねばと考えていたようで「じゃあ頑張ってみろ」と任されたのがスタートでした。
瀬川:Web施策をすると、それなりに費用がかかりますよね。すんなり予算は取れたのでしょうか。
堀野:当時、社風として経費の支出が厳しかったんです。仕事で使うシャープペン1本ですら稟議をあげないといけませんでした。
そこで年間でプランを決めて、必要なコストと想定の売上予測を社長に提案しました。
社長と一緒に施策リストを見ながら、どれを実施するか指差し確認しながらひとつずつコミットメントを得ていくようにしました。
そして施策を始めた3日後、1週間後にマメに数字を報告して、「ちゃんと成果が上がっている」ことを伝えていきました。
社長は商売の嗅覚が鋭い人だったので、「コイツに任せておけば儲かるな」と、僕の提案に耳を傾けてくれるようになったんです。
最終的には、年間で10億円以上の予算を預かり、実施する内容まで任せていただけるようになりました。
その結果、マーケティング予算に10億円投資すれば、30億円の売上が見込めるという理想的なマーケティングの仕組みが出来上がる状態にまで導くことができました。
仕事に全力を注いだ7年間でしたが、やり切った感じがありました。
40歳半ばくらいになり、今まで積み重ねてきた経験を世の中に還元したい、もっと誰かに頼られる仕事がしたいとの想いがあり、独立することにしました。
現在は、ECビジネスを行う事業会社を対象にマーケティング支援をしています。
デジタルだから低コストでできる訳ではない
瀬川:最近堀野さんにはどういったお悩みをよく聞きますか?
堀野:コロナ禍以降、メイン事業がダメージを受けたので新たにデジタルで何かできないか、という相談が非常に増えてきました。
一方で、「デジタルはよく分からないけど全部おまかせしたい」といったご相談もあり、対応の難しさを感じています。
なかには「予算は100万しかないけど、デジタルで1億円の事業をつくりたい」みたいな相談もあるのです。
「デジタルだったら低コストでできる」、そんな魔法の箱だと思われている節があるのかもしれません(苦笑)
ご相談をいただいた企業様の本気度を測るために、少し厳しいお話をすることもあります。
夢を求めて相談したのに現実的な話をすると「ちょっと考えておきます」と相談だけで終わってしまうケースも多いですね。
でも気軽に事業をはじめてしまうよりも、覚悟を持って本気で取り組んでいただきたいので、それでいいと考えています。
実際にお手伝いできるのは、5件に1件あるかないかでしょうか。
瀬川:お客様と支援側で認識のズレみたいなのは結構あるのでしょうか。
堀野:そうですね。特に地方は社長同士の繋がりがあって、「あの会社はInstagramで10億円の売り上げを出しているらしい。じゃあウチもやろう」みたいな話が多いんです。
僕の場合、過去に様々な失敗や成功の経験があるので、施策をした時にどういった結果になりそうか、ある程度想定できます。
「このまま実施したらきっと上手くいかないな」と。
一方で、実体験がない方は、マーケティング施策を実施した後の想像ができません。
だから少し遠回りになっても、相手にも気づいていただけるように丁寧にお話することを意識しています。
時には小さな失敗を経験をしないといけないこともある
瀬川:相手に気づいていただくために、具体的にどういったコミュニケーションをされるのでしょうか。
堀野:間違いを指摘をしても、クライアントさんはダメな理由までちゃんと理解しないと動いてくれません。
だから時には「小さな失敗」を経験してもらうこともあります。
それは僕が「ほらねダメだったでしょう」と言いたいのではなく、なぜダメだったのかを自分ごととして理解してもらうことで「次はどうするべきか」をクライアントさん自ら考えてもらうためです。
そのためには「堀野さんが言っていたことは、これだったんだ」とクライアントさんに気づいてもらう体験がどうしても必要です。
そうでなければ、いつまでも言われたことをやるだけになってしまいますからね。
僕の場合、長い期間にわたって支援を継続することが多いので、パートナーとしての関係性をつくるうえで重要なステップですね。
戦略らしきものはあるが、体系化されていない
瀬川:堀野さんはよく戦略の重要性を話されますよね。戦略を持ってマーケティングをされている企業さんは実際多いんですか。
堀野:戦略らしきものはあるけど、体系化されていないことが多いですね。
信じられないかもしれませんが具体的な目標が決まっていない企業さんも結構多いです。
「とりあえずECをはじめよう」というパターンですね。目標がないので、何をどうすればいいのかも当然わかりません。
また、自分たちの強みがきちんと言語化できていないことも多いです。
自分たちの強み=スペックや技術力となりがちなのですが、「じゃあ御社の商品を使うことで得られるお客様にとってのベネフィットは?」と問うと的確な答えが返ってきません。ユーザー視点が欠けてしまっている証拠です。
だから僕がファシリテーターとして入って、課題や状況を整理をしながら自分たちの強みを再発見したり、戦略プランを考えることをお手伝いします。
ある時は、クライアントさんの主要メンバーと一緒に合宿をしました。
みんなで自分が考えていることを付箋に書き、参加メンバーで議論しながら徐々にまとめていきます。
最終的には「みんなで作ったんだから、この戦略で行こう」という空気になるんですね。
妥協の産物になってはいけないので、違う意見も大事にしながら、みんなが納得できる形にできたのがよかったです。
事業をきちんと理解し、小さなサプライズが起こす
瀬川:堀野さんがクライアント支援で大事にしていることはなんですか。
堀野:当たり前のことですが、僕自身が時間をかけてクライアント様の事業をきちんと理解することです。
事業を理解できてはじめて、相手の期待を上回ることができます。
特に僕は小さなサプライズを起こすことを心がけています。
事業会社の方は、どうしても社内に籠もって仕事をしがちなので、そもそもお客様のことをあまり知らないんです。
僕が実際にお客様に対してアンケートやヒアリングを行い、そのデータをもとにした提案をすると「え、そんな意見があるんですね」と驚かれたりもします。
またユーザーテストをした結果を踏まえて「お客様はこんな不満を感じているんです」と提案すると、僕の考えを伝えるよりも事実のほうが明らかに説得力があります。
そこまでやると、他の会社とは少し違うなと感じていただけますね。
先回りして、相手の期待を上回る
瀬川:そこまでしてくれたら担当者さんも嬉しいですよね。他にどんなことを気をつけているんですか。
堀野:事業会社のマーケターさんって忙しいので、なかなか仕事が前に進まないんですよ。
僕は事業会社の経験が長いので、企画提案してから社内承認を得るためにどのような資料やプロセスが必要か、ある程度分かるんですよね。
だから先回りして、代わりに資料を作っちゃうこともあります。
「プレゼン時に使えるようであればたたき台にしてください」とか「以前に使っていた稟議書です、よかったらアレンジして使ってみてください」とかですね。
こういったことは僕自身がされたら嬉しいですし、そこで止まって仕事が進まないということを防ぐことができます。
直接売上に繋がるわけではないけど、クライアントからの評価は高まりますし、信頼を得ることでさらに仕事も広がることもあります。
瀬川:クライアントの社内に堀野さんみたいな人を育てていく感じなのでしょうか。
堀野:そうなんです。次に何をすべきか、その手順はどうするのかを考えたり、PDCAを回す中心となって進めるなど、ビジネス全体のコーディネートができる人材を増やしていきたいですね。
そのために僕が持っている知見やノウハウをクライアントの担当者さんにインプットして、自走していただくきっかけを作るサポートをしています。
他に心がけていることは、担当者さんを出世させることです。
事業の成長とともに担当者さんも成長していただくことが理想です。
出世いただくと、結果的に僕にも大きな案件や仕事が回ってきます。
実際に、案件の終了後に事業部長にまで出世されて、後日に「堀野さん、ちょっとお願いしたんだけど」と仕事を発注いただいたこともありましたね(笑)
マーケティングのみの支援では、課題は解決できない
臼井:堀野さんは本当に幅広い領域をされているのですね。
堀野:マーケティング領域を専門としていますが、単に集客やサイト改善だけではなく、企業によって課題は異なりますので人材育成やブランディングといった領域もご支援します。
ゴールが企業の成長や売上である以上、目標を達成するために必要なことは何でも提案しますね。
ある時は、評価制度の改革まで行ったことがあります。
オフラインの店舗事業をしていた企業が新しくECを始める際、少なからず両者の間でハレーション(好ましくない影響)が起こります。
どうしても既存の売上の多数を占める店舗事業のほうが立場が高かったり、ECにお客様を奪われてしまうという誤解が生まれがちなのです。
「ECは敵じゃないんだよ」と伝えるために、店舗で接客したユーザーがその後にECサイトで購入したら、半分を店舗の貢献度として評価をするように総務部と一緒に評価制度を変えるお手伝いもしました。
その結果、店舗のスタッフさんもお店の売上だけではなく、ECの売上アップも意識してくれるようになり、徐々にデジタルの取り組みに協力してもらえるようになりました。
そういったことを地道にやっていった感じですね。
マーケティング施策の一部だけをやっても、解決できないことは多いですよね。
瀬川:会社に深く入り込むほど、自分の仕事は増えていきますよね。線引きとかはしているのですか。
堀野:大前提として、月にかける業務時間は先に決めています。
その時間内で、優先度や影響度を考慮してご支援できることをどんどん進めていきます。
実際には時間を超えてしまうことも多々ありますが、あまり損得は考えずにやってしまいます(笑)
これはフリーランスだからこそできる強みかもしれませんね。
もはやマーケティング支援に場所は関係ない
瀬川:マーケティングの業界だと、東京のほうが仕事はやりやすいイメージがあります。地方でマーケティング支援をする意味は何だと思いますか。
堀野:僕は今、フルリモートで支援しているので、働く場所は全然関係ないと感じています。
もちろん東京のほうが情報は入ってくるのでしょうが、地方にいることにあまり不便は感じていませんね。
実際に、以前の事業会社は本社が兵庫県でしたが、東京の競合会社とも十分に戦えていました。
また個人の生活視点で見ると、生活コストの高い東京で暮らす意味がどこまであるのかは分かりません。
これだけオンラインが普及してきたので物価の安い田舎や海外で暮らしながらでも仕事ができると感じています。
これが大きな組織をつくるなら少し難しいかもしれませんが、小規模であればオンライン上でチームとやりとりしながら仕事もできます。
ありがたい世の中になっていきていますね。
行動できるかで差はつく。まずはやってみることが大事
瀬川:地方で働くマーケターさんたちに何か一言があればお願いします。
堀野:今はチャンスだと思います。
地方で働くハンデはありませんし、SNSを通じていろいろな人や情報を得たり、人との繋がりを増やすこともできます。
マーケティングを行う環境は整ってきていますので、今後差がつくのは「行動ができるか」の部分かなと。
座学だけで知識を学ぶよりは、現場に出て小さなことでもまずはやってみるほうが自分の糧になると思います。
教科書で学んだとおりの状況というのはほとんどなく、毎回異なるケース・課題に直面するので、自分の引き出しの中身を増やしていくことを意識してください。
マーケティングの案件は本当に増えているので、ぜひ修行がてら挑戦してみてほしいですね。
おわりに
今回は、みらいマーケティング本舗の堀野正樹さんに地方のWebマーケティングについてお話を聞いてきました。
お話を聞いて感じたのは、堀野さんがクライアントにとても深く入って関わっていること。
ご自身の経験があるからこそ、担当者さんがどうすればマーケティング施策を進められるか、いつも考えておられるようでした。
やはり本気でマーケティングを進めるには、マーケティング以外の部分まで踏み込んでいくことが不可欠なのかもしれません。
聞き手:臼井、瀬川
文・写真:瀬川