Webマーケティング業界において、東京と地方は大きく様相が異なっています。
東京では当たり前のことが、地方では当たり前でないこともしばしば。
そんな中、地方のWebマーケティングに私たちはどう関わっていけばよいのでしょうか。
そこで今回は、名古屋を拠点に中小企業のWeb集客をサポートされている運営堂の森野誠之さん(@uneidou)に、「地方でWeb集客を支援していくために大切なこと」をお伺いしてきました。
支援会社でマーケティングに関われている方、地方でWebマーケティングに携われている事業会社のみなさまは、ぜひご一読ください。
(聞き手:臼井、瀬川)
森野さんがアクセス解析の仕事を始めた理由
瀬川:森野さん、本日はよろしくお願いします。森野さんと言えばアクセス解析のイメージがありますが、今の仕事を始めたきっかけを教えてください。
森野:独立当初、Google アナリティクスを見る仕事はありませんでした。
だから、知り合いのWebサイトにGoogle アナリティクスのタグを入れさせてもらっていました。勝手に分析して修正点を提案し、その修正をするための費用をいただいていたのです。
地方では、結果が出そうなものにしかお金をいただけない感覚があります。
だから私もリスクを取ってまずは改善点を提案し、まず結果を出すことを優先していました。
地方Webマーケティングは、正直ほとんど進んでいないので、ちゃんとやれば結果は出ます。
リスティング広告を出していないなら、1つでもコンテンツを作って広告を出してみる。Googleマイビジネスをやっていなら、ちゃんと設定してみる。
こういった施策を少しするだけで、競合が少ない分、反応は出てきます。
結果さえ出れば、じゃあ次はこれをしましょうと繋がっていくんです。
地方におけるWebマーケティングの実情
そもそもWebマーケティングに意欲的ではない
瀬川:最近、お客様から「Web集客を進めたい」とよくお話を伺うようになりました。一方で「なかなか進められない」との声も聞きます。森野さんはどう感じられているでしょうか。
森野:地方の特徴として、営業やマーケティングを頑張らなくても既存の付き合いなどで売上が出てしまうので、あまり困っていない企業も多いんです。
「Webを使えば上手くいきそうだな」とは感じているものの、頑張らなくても事業は十分回ってしまう。
もちろんコミュニティの外で、新しくお客様を増やそうとなると、Web集客を考えるようになります。
とはいえ、ちょっと調べてみたけれどよく分からないから諦めてしまう人も多いのです。
今はセミナーに行ったり、インターネットで調べてみたりすれば、情報が多く出てきます。
しかし強く必要性を感じていないので、ちょっとずつ始めることもしません。
例えば、「コンテンツをつくったほうがいいですよ」とアドバイスをしても、「今は忙しいし、よく分からないんです」と言われてしまいます。
一方で、そういった中でもWeb集客を意欲的に進める企業もいます。
その企業は、すでに結果が出ているし、聞いて来られる質問も具体的なので、上手く進んでいきます。
施策をどうやっていくかの話はいくらでも相談に乗りますが、意欲的でない人を動かすことは難しいですし、私の仕事でもありません。
実際に業務を始めてみても、お互いに手応えがなければ、3ヶ月くらいで終了することもあります。
あくまでクライアントのやりたいことを手伝うのが私の役割かなと思っています。
アクセス解析よりもまず考えるべきことがある
瀬川:最近、Googleアナリティクスが地方でも使われはじめていますよね。森野さんの元には、どういったお問い合わせが多いのでしょうか。
森野:「Googleアナリティクスがうまく設定できてないから教えてほしい」などの相談がきます。
ただ実際にGoogleアナリティクスを見ていくと、もっとWeb集客全体的な話になっていきます。
例えば、アクセス解析の場合でも、適切にキャンペーンにパラメーターをつけて連携させたり、コンバージョン設定をしたりしなければ、ほとんど何も分かりません。
場合によっては、サイトには問題がなく、売っている商品自体に競争力がないのではないかと感じることも多いです。
他社で全く同じような製品があり、その製品のほうが安ければ、Webで売上を立てるのは難しいでしょう。
地方では、関係性で売れている商品もあります。
それなら関係性がある人に対して、メールマガジンを継続して配信するなどのコンテンツを作るべきです。
最近BtoB企業の方から、「メールマガジンが効果が出ていないから止めようか迷っている」とのお話を聞きました。
実際文面を見せてもらうと、いわゆる「売り」が強いメールだったんです。
BtoB企業で、営業色しかないメールマガジンは効果が出ません。
だから、お客様のお悩み事例や製品Q&Aなどを配信するよう伝えたところ、きちんと反応が出るようにりました。
なぜ既存の顧客は、自社で買ってくれてるかを考えなくてはいけません。
エンドユーザーは決してスペックや値段だけ見て買うか決めるのではありません。
むしろ担当者さんが親身になってくれるなど、別の理由があることも多いです。
ちゃんと関係性をつくって売っていけば、口コミで広がっていきます。その方がWebで新規顧客を取るより早いです。
もはやWebで新規顧客を獲得するより、既存顧客としっかり関係性をつくり売上を立て、その余力で新規開拓したほうがよいかもしれません。
地方でWebマーケティングの仕事をしていくために
選択と集中で、ポジションを築いていく
臼井:森野さんみたいな方はあまりお見かけしない気がします。今のポジションは狙って作っていったのでしょうか。
森野:ずっとお客様から指名されるようになりたいと思っていました。
そのほうが効率よく営業できますし。そのためにどうしたら良いか考えてきました。
独立当初、アクセス解析の仕事をしていましたが、次第に制作の仕事が増えて追われるようになってきたんです。
そこで徐々に制作の仕事を減らして、Googleアナリティクスを使った解析で結果を出そうと決めました。
そのためには根本的にやり方を変えなくてはいけけません。
まずは情報を集めて、その内容をメールマガジンで配信し始めました。
すると幸いにも、メディアでも取り上げていただけるようになり、権威性みたいなものが出てきました。
地方では、権威付けが重要です。
東京の人からは「名古屋の人」と思われ、名古屋の人からは「東京の人」と思われると、どちらでも競合になりづらいのです。
だからこそ、今は東京と地方の中間地点を狙っています。
また私は、基本的に売るものがないんです。
制作会社なら制作しないといけないし、リスティング広告の運用会社ならリスティング広告の運用を売らないといけない。
でも私はそういったプレッシャーがないので、いろいろアドバイスできます。これは個人でやっている強みですね。
制作会社にあるような工数を売っていくモデルでは限界があります。
ならば、2割の労力で8割の収益がつくれるような体制にしていけなくてはいけません。
儲ける手段で戦わず、結果としてお客様から頼んでもらえるようにしていくことが理想です。
業者ではなく、本当のパートナーになる
臼井:お付き合いしているクライアントさんは、森野さんのことをどう見ているのでしょうか。
森野:普通に会社にいる社員ような感じですかね。
下手な社員よりも社内のことを知っています。でも、そこまで中に入っていかないと分からないことも多いです。
東京と違って、地方は広告などのマーケティング予算が少ないので、業者が変わってもやることは大きく変わりません。
結果として大きな変化も生まれないので、もっと根幹の経営レベルで関わっていくほうがよいんです。
例えば、クライアントで通販をやっている会社さんがいます。
支援する際は、集客施策を提案するだけではなく、実際にちゃんと在庫があって、予定通り配送までできるか確認します。
もしちゃんと配送までできないのであれば、やり過ぎなので施策は止めましょうとお伝えします。
クライアントが作成した事業計画で、売上目標や使える販促費を確認して、提案を出していきます。
例えば、2020年7月は新型コロナウイルスの影響があったので、自粛ムードが解消されている場合と、されていない場合でそれぞれキャンペーン3つぐらいを考えておいてくださいとご提案しました。
時には、会社の経営や組織についても話すことがあります。
地方の企業にいるWeb担当者は、一人で黙々とやっていて、社内へのアナウンスがうまくいっていない人も多いんです。
すると担当者は頑張っていても、周りの理解が得られなくなってしまいます。
経営者からすると、何をしているか見えないのが一番不安です。
だから会社内のポジションを築くために、自分がやっていることや結果を継続して発信するようアドバイスもします。
経営層から理解されないときは、向こうの言葉で話さなくてはいけませんからね。
自分で咀嚼してどうやって地方でできるか考える
瀬川:まさに経営アドバイザーみたいな立ち位置だからこそ、クライアントと良い関係ができるのですね。地方でWebマーケティングを進めていく人は、どんなことを気を付けたらよいでしょうか。
森野:地方でWebマーケティングをやりたい人は、まず一度東京などで最先端の知識やスキルを勉強してくるのが良いでしょう。
ただし、その知識をそのまま地方に持ってくるのではなく、自分で咀嚼して分かりやすく噛み砕いてから実践しなくてはいけません。
よく地方の人が東京でWebマーケティングを勉強すると、「地方はこうだから良くない」とすぐに言います。でも、地方はそんなものです。
だから知識を噛み砕いて、どう相手に理解してできるか考えなくてはいけません。
例えば、一流のプロサッカー選手が小学生の集まりで最先端のプレーを教えても、誰も付いていけないでしょう。
しかし、そういった選手は小学生にも分かりやすく教えられるはず。
教わってレベルが上がれば、いずれより高度なスキルも分かるようになるのです。
東京が羨ましいと嘆いている暇があれば、まず地方でやって結果を出すべきです。
地方で結果が出せない人は、よりハイレベルな東京に行っても結果は出せません。
クライアントに信用してもらうために少しずつ結果を出して、お金を浮かせて、それを次に施策に使っていく。
時間はかかっても、順番にやっていくことが地方では重要なんですね。
おわりに
今回の取材では、森野誠之さんに地方Webマーケターにどんな役割を果たしていくべきなのかお伺いしました。
「地方でWeb集客を進める場合は、クライアントにとっての本当のパートナーにならなくてはいけない」
この言葉がとても印象的だった取材でした。
地方には、地方の戦い方があります。相手の言葉でどう分かりやすく伝えていき、信頼を勝ち得ていくか。
そういった人間性やコミュニケーションがより重要になってくるのかもしれません。
聞き手:臼井、瀬川
文・写真:瀬川