地方の中小企業を支援されているWebマーケターさんにお話を聞くこのシリーズ。
第9弾の今回は、中小企業を中心にコンテンツマーケティング[glossary_exclude]支援をされているサーチサポーターの敷田 憲司さんです。
敷田さんは現在、SEOやSNSを中心としたコンテンツマーケティングの支援をされているほか、書籍なども多く出版されています。そんな敷田さんに、中小企業がコンテンツマーケティングで成果を出すためのポイントについてお話を聞いてきました。
情報発信でお悩みの方は、ぜひご覧ください。
サーチサポーター 敷田憲司さん
福岡県出身。Webマーケティング専業「サーチサポーター」代表。大学卒業後、システム開発/運用会社に就職し、メガバンクのシステム部に9年以上常駐。Web運営に興味を持ち、株式会社フルスピードに転職し、SEO、SEM、アクセス解析などサイト運営を手がける。後に、Web制作会社にてディレクション、コンサルタントを経て、2014年よりフリーランスとして独立。現在は、書籍の執筆や事業のスタートアップに積極的に参画している。
Webサイト:https://s-supporter.jp/
Twitter:@kshikida
漠然とした課題はあるが、どうしてよいか分からない企業が多い
瀬川:敷田さんは中小企業を中心として、コンテンツマーケティングを支援されているかと思いますが、現場はどういった状況なのでしょうか。
敷田:私が見ていて、漠然とした課題があるが、どのように解決してよいかわからない中小企業さんが多いです。
ホームページをつくり、お問合せはできるようになったけど、そもそもお客様に見られていない。では集客しようとしても、どういったコンテンツを作っていけばよいか悩んでしまいます。オウンドメディアやSNSといった方法はあるものの、どれが最適かどうか選ぶことができないケースも多いですね。
ホームページすら持っていなく、制作にも時間がかかるとなるなら、まずはSNSをお客様との窓口にしてもいいんです。SNSアカウントを開設して、投稿してネタを貯めていく。そうすると反応がよいものが出てくるので、そういった投稿をオウンドメディアでまとめ記事にする。こういった手法もあります。
今まではオウンドメディアがあってSNSで告知が多かったですが、最近はその流れが逆転している感覚がありますね。
瀬川:コンテンツマーケティングにおいて、ネタ不足はよく聞きますよね。
敷田:おっしゃる通り、経営者の方に記事執筆をお願いすると、「何を書けばよいのか」と言われます。でもヒアリングすると、「それ、とてもよいネタじゃないですか」みたいな話が結構出てくるんです。
言語化に慣れていなくても、ネタはあるわけです。であれば、まずそのネタだけをつぶやいてみます。すると、世の中には「それを私も言いたかった」と同じように思う人たちがいて、ネタに反応して集まってくるんです。
そしてシェアのみならず、クチコミもつくってくれます。ネタが溜まってきたら、まとまったコンテンツをつくれるようになっていくはずです。
中小企業向けコンテンツマーケティングの4ステップ
ステップ1:まずは自分だけのネタ帳をつくる
瀬川:SNSを運用しようとしても、なかなか成果が出ないと悩む企業さんは多いです。どこから始めるべきなのでしょうか。
敷田:初めはなかなか反応がなくて、心折れて更新を止めてしまう人が多いですよね。だから、初めはともかく人に感動してもらうことを狙わず、自分のネタ帳のようにして、自分が少し気になったことを書き留めるような使い方がよいと思います。とりあえず書き溜めていると、それを検索して見にきてくれる人も結構いるんですよね。
実際、自分がSNSを始めた当初は本当に日常で思ったことを書いていただけでした。それを続けていると、同じように考えている人や、逆に「僕はこう思う」と反応してくれる人も出てきます。そういった反応を何回か経験すると、「こういったことを言うと、こういう人が反応するんじゃないかな」みたいな勘所が掴めてきて、質も上がっていきますね。
もし投稿に対してあまり反応がなくて心折れるなら、別に消せばいいんです。誰にも見られてないならいいやって感じで。ただ1年後になぜかリツイートされて、いきなりバズるみたいなこともあるので、なかなか難しいのですが。
瀬川:日常で思ったことなら、どんなことでも発信したほうがよいのでしょうか。
敷田:自分に関係する内容のほうがやはり良いと思います。例えば、自分が税理士だったら、税務に関することを言うとか。自身と関係ないことばかりだと、アカウントの軸がブレてしまいます。
自分が発信したいことは、プロフィールで宣言するのもおすすめです。例えば、私は基本はWebマーケティングのことですが、サッカー好きなのでサッカーに関することもつぶやきます。それらはプロフィールで宣言していれば、自分の軸になるので、「これって自分のアカウントでつぶやくべき?」と悩んだ時に見分けがつきやすくなりますよね。
瀬川:ネタがすぐ思いつかない人は、どんなことをしたらよいのでしょうか。
敷田:私がSEO畑の出身なのもありますが、まずはネタづくりのためにキーワードを徹底的に検索します。検索して、類推するキーワードを見たり、関連記事をブックマークしてストックしたり。私の場合は、はてなブックマークやEvernoteを活用していますね。日頃からこういったことをしておくと、何か話した時に「つい最近こういったことを聞いたな」とふと思い出す瞬間が結構あるんです。
例えば、保険を扱う会社なら、おそらく毎日ニュースをチェックしていると思うんですよね。そのニュースを見て「ただ面白かったな」と思って終わるのではなく、思ったことを言語化してみる習慣を身につけていただくようアドバイスしています。ずっと積み重ねていくと、世の中に聞いてみてもいいかなと思うことがわかってくる。そしたら、実際にSNSで発信してみる。少しずつ段階を追ってしてもらうことが1つの方法ですね。
いきなりゼロイチでコンテンツをつくるのはとても難しいです。ネタを集めて溜まっていくと、自分の知見となって、ゼロイチで生み出せるようになる。最初は人のネタに乗っかってみるといいですね。
ステップ2:ネタをオリジナルなコンテンツに変えていく
瀬川:そうやってネタが増えてきたら、次は何をすべきでしょうか。
敷田:次は、溜まってきたネタの中から、「結局こういうことだよね」という自分の意見をまとめてつぶやいてみるといいですね。元ネタは外部のものだけど、そのネタに対しての自分の意見や考えを発信していく。まさにゼロイチでネタをつくっていく段階ですね。
こういった発信方法は、かつてはブログ、今はFacebookやTwitterで多いですね。Facebookは、比較的企業で活用されていたので、仕事に関係する話が今でも集まりやすいことが特徴です。NewsPicksのコメント欄も似たような感じですね。自分の知識を発信したい意識が強い方が多く、「僕はこう思うんだよね」みたいなことを結構長文で書かれていますね。
また自分たちが引用してつぶやいたネタについても、テーマに合わせてリライトするのもいいでしょう。そうすると、オリジナルの色が強くなり、0→1が生まれやすくなります。ただ元ネタをまとめるだけでなく、自分たちが考えたことを少し付け足してみると、新しいコンテンツになっていきますよね。
本でも同じだと思うんですよね。本を読んでいて、この一節がいいなと思えば、それを引用して、それを繰り返していくと自分の言葉になっていきます。言い換えができてくると、本当にオリジナルになっていきます。
ステップ3:リアクションを期待したコンテンツをつくる
瀬川:ネタを自分の言葉にしてオリジナルをつくった後は、どのように伸ばしたらよいでしょうか。
敷田:オリジナルを発信するところまで来たら、お客様にリアクションしてもらうためのコンテンツを考えていきます。例えば、企業のオウンドメディアであれば、問い合わせが来てほしいはず。であれば、過去の事例やこういった悩みを抱えたお客様がいて、その悩みをどのように解決したかを伝える。すると、同じような悩みを持っている方は、「この人に相談したら、悩みが解決できるのでは」とリアクションが生まれてくるかもしれません。
SNSに限らず、オウンドメディアのQ&Aは結構読まれます。最近は、音声検索ができるので、悩みをそのまま調べる人も多くいます。
その悩みにドンピシャで答えるQ&Aが出てくると、SEOの観点でも検索に引っかかりやすくなり、アクセスも増えます。同じようにSNSをQ&Aページの一つとしてやるのもよい打ち手ですね。
瀬川:コンテンツはどのように考えていくとよいでしょうか。
敷田:本にも書きましたが、コンテンツは大きく2種類に分かれます。「問題解決型」と「共感型」です。SNSは、後者の共感型のように思いますが、別に問題解決型の内容をつぶやいても大丈夫です。自分が専門家でノウハウがあることを伝えられるし、権威性みたいなものが自然とついていくはずです。
これは、決してネットだけの話ではありません。リアルな世界でも、実際に話していると「この人は〇〇に詳しい人だ」と思いますよね。同じように、SNSの世界でも発信し続けると、相手にもその道の専門家であると思われるようになります。
瀬川:問題解決型のコンテンツは、どこのジャンルでもつくれるものなのでしょうか。
敷田:商品サービスによっては難しい場合もあります。そういった時は、少し視点を変えて、自分がチョイスしたものを紹介するのも手です。例えば、漫画について発信すると、どうしても面白いか、面白くないか、の2軸になってしまいます。であれば、「〇〇というテーマなら、僕はこれを選びます」みたいな投稿をしてもよいでしょう。投稿しづらいテーマなら、視点を変えてみるわけですね。
瀬川:逆に、共感型の場合はどういったコンテンツになりますか。
敷田:共感型は、そのまま自分が感じたことを書けば大丈夫ですが、少し注意が必要です。誰かを否定したり、悪く言うのではなくて、あくまで「私はこのように思う」と書くことが重要ですね。「これが嫌だ」と後ろ向きなことを書いてしまいたくなりますが、そうでなくて「この部分の言葉の表現に少し違和感を感じた」といった書き方をすると、共感してくれる人も多くなると思います。言葉の使いかたを変えてみるといいですね。
ステップ4:成果を狙うコンテンツをつくってみる
瀬川:人の意見にまず乗ってみる。そしてオリジナルなコンテンツにしていく。さらに読み手を意識したコンテンツをつくってみる。ここまで来たら、次は何をすればよいのでしょうか。
敷田:ここでやっと成果を考える話になりますね。共感までしてもらったなら、実際に自分たちのサービスの成約にどのように結びつけるか、申し込むかを考えていきます。KPIについても、ずっと1つに決めてしまうのではなく、お客様の段階や状況に合わせて変えていきます。最初はインプレッションだけど、次はクリックを見ていく、そして次は成果を見ていくといった感じです。
瀬川:成約につながるコンテンツはどのように考えていけばよいのでしょうか。
敷田:つい全員に見てもらうことを考えてしまいますが、本当に確度の高い人に向けてより具体的なコンテンツをつくるべきです。例えば、サービスの値段についてだと、「普段値段はXX円ですが、今は特別に〇〇円です!」と具体的に言及していくのです。
当然一般の人は反応しないけれど、その中でごくわずかに絞られた人が反応してくれるはず。だから、投稿をする際にも、この投稿はかなり確度が高い人向けですと、決めていくことが必要です。そうやって反応してくれた人が10人いて、3人成約したら、成約率30%と言えます。自分たちの中で、目的とKPIを変えてやっていくことが工夫する部分ですね。
瀬川:SNSは広く発信する場と思われがちですが、決してみんなに伝える必要はないんですね。この人だけに聞いてもらえばよい、との考えかたは新鮮でした。
敷田:SNS運用では、多くの人に見てもらうために検索ボリュームを見てタグをつけましょうとの話があります。ただ実際は、検索数こそ多くなくても確度が高い人に刺り、成約もしやすいタグもいくつかあります。投稿を作っていくときも、目的を分けて運用していくことが重要ですね。
瀬川:こういった投稿をつくっていくためには、どのくらい期間がかかるのでしょうか。
敷田:投稿数やテーマによりますが、まずは目安として3ヶ月と自分たちで決めて取り組むとよいと思います。もちろん早くなっても、時間がかかってもいいのですが、最初に目安を決めておけば、運用しながら調整していけます。何もルールがないまま全部やってしまうと、うまくいかないケースが多いですからね。
誰もが早く結果を出したい。しかし残念ながらそんなに上手くいきません。いきなり結果が出ることは稀なので、はじめは精度が低くても、自分たちでルールを決めて少しでも積み上げてみることが重要ですね。
瀬川:結果を狙う投稿と、それ以外の投稿の適切な割合はどの程度なのでしょうか。
敷田:よく本を勧められて実際に買って読む人って100人のうち1人くらいと言いますよね。最後まで行き着く人は、1%~2%くらいしかいないわけです。先ほどお話しした4段階でいえば、1段階目が100%とすると、2段階目は50%、3段階目は25%くらいの割合でしょうか。運用しながら、どの段階の投稿を増やせばよいか調整は必要ですね。
コンテンツマーケティングを進める上で重要なこと
成果を追いすぎないこと
瀬川:コンテンツマーケティングや情報発信を企業が始める上で大事なことはなんでしょうか。
敷田:最初から成果を追いすぎないことですね。SEOも同じですが、「何かつぶやけば、お客様がたくさん買ってくれる」と、魔法のようなものがあると思っている方が多いですね。実際のところは、なかなかお客様は来てくれません。はじめはその誤解を解くところからスタートしますね。
瀬川:よくKPIとしてあがるフォロワー数は、やはり追ったほうがよいのでしょうか。
敷田:Web担当者Forumさんの記事で「上司からフォロワー数を増やせと無茶振りされたらどうする?」という記事があったのですが、やはりフォロワー数は見たほうがよいと思います。
まずは上司が言う通りフォロワー数を増やしてみる。それで報告する際に、「とはいえ自分は追うべきはフォロワー数でないと思う」ことを伝えます。そのうえで「こういった施策をしたら、この結果が出た」といった話をセットで話すと、上司もフォロワー数ではないことを納得してくれやすくなります。
慣れてからが危険。炎上には気をつけること
瀬川:他に気をつけることはありますか。
敷田:やはり炎上には気をつけるようにアドバイスしています。最初のうちは炎上を気にするので、恐る恐るつぶやく方が多いです。
しかし慣れてくると、「ウケがいいから、もっとこの方向でつぶやいてみよう」と行き過ぎた結果、炎上してしまうなんてことが多いです。どうしても人は数字やKPIを決めてしまうと、成果を出したいあまり、数字を求めて行き過ぎてしまうことがあります。
その抑止としては、定期的な分析や検証をすることです。振り返ってみて、本当にこういった投稿が自分のアカウントとして相応しいものかを見ることで、炎上しなかったけど危なかったヒヤリハットにも気づけるはずです。
自ら社内に情報共有すること
瀬川:やはり社内向けに、定例会議なども開くべきなのでしょうか。
敷田:もちろんあったほうがいいですね。特に中小企業さんだと、若い方がネットに詳しそうだからとSNSを任されることがよくあります。ただその方1人に任せてしまい、きちんと方向性など決めていないと、振り返りせずに好きにやってしまうので、いつかトラブルになってしまうのです。
そもそも漠然とやっていると、会社から「結局あなたは何をしているの?」と言われて、運用自体が終わってしまうこともあります。指標が決めてあれば、自分の仕事の成果をきちんと見せられます。月1回など定期的にやったことを示すことで、会社も遊んでいるわけでないことをわかってくれるはずです。
ポイントは、とにかく自ら情報共有することですね。私がSEO担当だったときは、PVやCV数といった毎月のアクセス状況はもちろん、成果が出た際は「今日こういったことをしたら、こんな結果が出ました」と、全社メールで発信していました。いやらしい言い方をすれば、自分は仕事して会社に貢献していることのアピールになります。
また他部署の方から「敷田さん、こういうネタがあるんだけど」と協力をしてもらえるようになるんです。自分1人で何でもするのでなく、なるべくオープンに情報発信していくことは大事な仕事だと思いますね。
臼井:それは自信がないと、なかなかできなさそうですね。
敷田:これはSNS限らずですが、自分から情報を発信する人のところに情報は集まってくるものです。SNSでこれを言ったら、変な反応をされるのではないかとの不安はもちろんありますが、その心理的障壁を超えて、発信してみることが重要ですね。
何も動かないと変わらない。だからまず発信すること
瀬川:最後に中小企業がコンテンツマーケティングに取り組むメリットは何か教えてください。
敷田:自分の生き方とも似ていますが、結局動かないと何も始まりません。今は、誰でも発信できる時代だからこそ、自ら発信すべきです。中小企業であっても、ネタがないからと黙ってしまうのはもったいない。その中でも自分たちが発信できることを、まず1ステップでもいいので挑戦してほしいですね。
おわりに
この記事では、サーチサポーターの敷田さんに、中小企業がコンテンツマーケティングに取り組むポイントについてお話を聞きました。
敷田さんのお話にもありましたが、今は誰もが情報発信できる時代で、情報発信する手段もノウハウも多く出てきています。
だからこそ、覚悟を決めて一歩踏み出すことが今一番重要のかもしれません。
聞き手:臼井、瀬川
文・写真:瀬川